建築のプロの自宅は
平屋が多い、その理由とは

昨今、平屋がひそかにブームになりつつあることはご存知でしょうか?

また、昔から建築のプロである工務店の社長の自宅、そして設計士の自宅は一般的な割合に比べて平屋が多い傾向にあります。
ここでは、このような平屋を選ぶ理由を一般的な購入者の目線、そしてプロからの目線を取り入れて平屋が人気の理由を解説していきます。
そして、家づくりにおける魅力だけでなく、生涯コストというポイントにも焦点をあてて、ライフスタイルとして平屋がもたらす恩恵まで紹介していきます。

ぜひ、平屋が気になっている方は最後までご覧ください。

1. 歴史と統計から紐解く「日本における平屋」

プロの自宅に平屋が多い理由の前に、まずは平屋の歴史と直近の統計データからみていきましょう。
戦前までの日本では長屋(ながや)と呼ばれる平屋に住んでいる人が大半でした。
平屋は今のように暮らしやすいという側面ではなく、むしろ文化的に庶民の家は1階建てが普通、2階建ては裕福な身分でないと住めないような家、という位置づけでした。

その暮らしは今とは大きく異なっていますが、2階建てが主流になってきたのは1900年代に入ってからで、本格的に普及したのは戦後の復興〜高度成長期にかけてになります。
戦後は土地も細分化されてくる中で、2階建てでないと一般的な4人家族それぞれの居室を確保するのが難しくなってきたことが理由です。
一般の家も、土地の面積の関係から2階建てが主流になり、昨今に至るまで2階建ての方が多いです。
そんな歴史の中で今少しずつ、平屋へ回帰する変化が起き始めています。

1-1. 平屋の統計データ

つづいて直近における統計データを見ていきましょう

上図はリクルート社が実施した2023年の住宅動向調査です。

該当調査での有効回答数としては、「建築者」で1,773サンプル(全国)、「検討者」で1,776サンプル(全国)を基にしたデータになっており、母数の多い信頼性の高いデータになってます。
平屋は、建築するための土地面積が多く必要なため、土地面積が確保しやすい地方と、そうでない都心部では大きな差が出るものの、全体的に右肩上がり傾向であることが見て取れます。

三重県を含む東海地方においては、コロナ禍前の2019年には7.3%であったことに対し、2023年においては23.8%と実に4軒に1軒の割合で平屋ということになります。
東海地方以外で特に伸び率が顕著なエリアは、「中国・四国地方」「北関東地方」です。
「九州・沖縄地方」は元々30%台と平屋が多いですが、これは台風の影響が深く関係しており、沖縄でも平屋が多いことが原因と言えます。
東海地方に目を向けると、名古屋を中心とする都心部では平屋の割合はぐっと下がりますが、土地が広く確保できるエリアであれば、平均値の23.8%を超えるエリアも多くあるわけです。

1-2. コロナ禍以降に平屋が注目されている理由

昨今は、統計データからも「平屋ブーム」と言ってもよいでしょう。
ブームになっている考えられる理由は様々ですが、以下のような要素が特にコロナ禍以降に増えた理由と考えられています。

  • SNSを介して平屋の魅力が広まり、「古臭い」「安っぽい」というネガティブなイメージがなくなったこと
  • 断熱性などの住宅性能が、全体的かつ急激に向上していることで間取りの自由度が高くなった
  • 多様的な生き方および高齢化の進行で、単身・夫婦2人暮らしが増加している
    (※内閣府資料 2010年:52% → 2025年:57%)

もっとも大きな効果は、コロナ禍以降に住宅業界全体がSNSを活用したマーケティングに力を入れて、平屋の魅力が自然に広まったことと、昨今の若者世帯の考え方にマッチしたことが最大の要因と言えるでしょう。

続いては、その平屋自体のメリットを一般購入層およびプロの視点、それぞれから見ていきましょう。

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2. 一般的な平屋のメリット

一般的な平屋のメリットはこちらの3つです。

  • 階段がないことで将来的にも安心感が高いこと
  • 生活動線および家事動線をコンパクトに設計しやすいこと
  • 家族の距離が適度に近く、一体感が醸成されやすいこと

2-1. 階段がないことで将来的にも安心

平屋には当然、階段がありません。
あったとしても、基本的には収納へのアクセスなど最低限なものになります。
新築を検討される方の多くが20代~40代で、子育て世帯が大半になっています。
子育て世帯であれば階段があったとしても、まだまだ気になることは少ないでしょう。

しかし、昨今の住宅は長期優良認定住宅をはじめとして、建物が昔に比べて長寿命化してきています。
30代で新築として建てても、適切なメンテナンスを経て30年~40年後の老後でも、問題なく住めるような高い耐久性の家が増えています。
そのため現在の子育て時期だけでなく、将来的な暮らしも考えていく方が増加し、平屋に対する需要・希望が増えていると言われています。

ところで、年をとってくると様々なリスクが増えます。

「65歳以上の高齢者の転倒事故場所ランキング」を見ると、1位に居室、2位に階段となっています。

上記のデータでも、居室は在宅しているほとんどの時間が居室にいるため必然的に1位になりますが、一時的にしか使わない場所の中では階段が圧倒的に多いことが分かります。
人間だれしも腰やひざなどに負担が来て、階段の上り下りが難しくなったり、つまずく可能性が高くなってきます。
そのため、階段の昇降をすることなく暮らせる平屋を新築時に建てておこう、と考えるわけです。
ここは平屋における、だれしも納得のポイントでしょう。

2-2. 生活動線および家事動線をコンパクトに設計しやすいこと

2つ目は子育て世帯におけるメリットとして、生活動線および家事動線をコンパクトにしやすい点があげられます。
平屋というキーワードに並んで、昨今は「1階寝室」というキーワードも増えてきていますが、1で紹介した階段以外のメリットにはこの動線のコンパクト化にあります。

1階に寝室があると、同時にウォークインクローゼットもしくはファミリークローゼットも水まわりと隣接させやすくなります。
家事に焦点をあてて解説すると、この隣接によって特に洗濯にかかる動線の効率がよくなります。
一般的な2階建ての平屋の場合、1階に水まわり(洗濯・干す作業は1階)、そして2階に各部屋が配置されているため、服を持っていくために上下移動が発生する動線になります。
一方で平屋の場合、洗面脱衣室やランドリールームで洗濯をして、服を収納する部屋がすぐ隣に配置でき手間を減らすことができます。

また、ぐるっと回遊できる間取りにもしやすいため、建てる階数関係なく多くの方が気にする「生活動線・家事動線」を効率化しやすいと言えます。

2-3. 家族の距離が適度に近く、一体感が醸成されやすいこと

“リビング内階段”というキーワードがありますが、間取りを考える上で重要なキーワードの1つです。
平屋は階段がないことで、リビングを家族が通過するプランになりやすいです。
よく、玄関からすぐ階段にアクセスできると、子どもがいつ帰宅したか分からなくなると聞きます。
平屋では自然と家族が顔を合わせやすい間取りがとりやすく、お子さんが思春期になった時でも、「いってきます」「おかえり」などの何気ない日常会話から家族のコミュニケーションが取りやすいメリットがあります。

また、リビングを中心にして各部屋にいくプランをイメージしてもらうと、家族がリビングに集まりやすくなります。
一般的な2階建ての場合、個室を2階に設けることで階段の上り下りが面倒くさくなり、1階のリビングに集まりにくい側面がありますが、平屋は個室を出るとリビングが近いことからも、家族のコミュニケーションが一層取りやすいと言えます。

以上、ファミリー世帯の新築にも平屋が人気になっている3点の理由を解説してきました。
続いては、気になる建築のプロ目線で平屋を採用する理由、そして工務店の社長の自宅に平屋が多い理由の真髄をみていきましょう。

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3. 建築のプロが平屋にいきつく理由

工務店の社長の自宅や設計士の自宅では、昔から平屋を採用する割合が高いです。
明確な統計はないものの、筆者が100以上の工務店と関係する中での肌感では圧倒的に平屋が多く、特に地方に行けば平屋の割合はさらに高くなります。
一般的な平屋のメリットももちろんですが、プロの目線として平屋を選ぶ4つの理由がこちらです。

  • 耐震設計上、平屋は有利になること
  • リビングに大きな大空間、高い天井高の設計を実現しやすいこと
  • メンテナンスの経費を抑えられること
  • 自社で建てたお施主様が、加齢とともに2階を使わなくなるケースが多くなるのを見ていること

この4点について、詳しく見ていきましょう。

3-1. 耐震設計上、有利になりやすい

平屋は住宅で求められる性能で1番最初に来る「耐震性」を強く設計しやすく、支える壁や柱が少なくても耐震性を確保できる設計にできます。

上図は、設計上求められる最低限の「壁量」を数字で表したものです。 設計士が耐震設計を考える上で、家を支える力を表したものですが、壁や柱が多いほどこの数値が上がっていき、家の耐震性が高くなります。
その壁自体にも「壁倍率」という強さを表す指標があり、耐震性を複合的に計算していくような仕組みになっています。
上図をみていただくと、屋根の重さで支えるための壁の量が変わるものの、平屋は2階建てに比べて必要な耐力壁が少なく済みます。
(軽い屋根の場合、平屋は11ですが、2階建ては1階部分に29・2階部分に15必要です)
言い換えると、2階建ては地震で受けるエネルギーが大きいため、壁を多く配置しないといけないわけです。

このことから平屋は、「耐震に強い家が設計しやすい家」であると言え、プロが平屋を選ぶ理由の1つになっています。

大空間を設計しやすい

プロが選ぶ2つ目の理由は、リビングなど大きな空間を設計しやすい点です。

一般的な2階建てのリビングで開放的な空間を創り出そうとすると、天井高さを上げたり吹き抜けを設けることになります。
一方、平屋の場合はリビングの上がすぐ屋根になっていることから、小屋裏空間(屋根の裏側の空間)を吹き抜けとして利用しやすく開放的な空間を設計しやすくなります。
そして1点目で解説したように、必要な壁量が少なくても耐震性を確保できるため、上にも横にも広い空間を設計しやすくなります。

2階リビングというキーワードも都心部では人気ですが、どうしても生活基盤が2階になることで上下移動が増えるデメリットから一定以上普及しません。
平屋は、2階建ての2階リビングのメリットの1つである、小屋裏空間を使った大空間が自動的に作りやすい家でも、将来的にラクな家と「いい所どりな家」と言えます。
特に空間設計にこだわる工務店、さらに自宅となればそのような開放的な空間を設計したくなるのも自然のことです。

3-3. メンテナンスの経費を抑えることができる

生涯コストの圧縮に繋がるポイントでもありますが、平屋の場合は外壁の塗り替えに対して足場が最低限で済みます。

部分的な塗り替え補修であれば、条件によっては脚立などで済ませることも可能で、定期的に必要な補修費用を抑えることができます。
また足場が必要な塗り替え、もしくは屋根の修繕などの場合も、足場の設定は最低限で済みますのでメンテナンスもラクになります。

工務店の自宅であれば、自分で補修することもあるでしょう。
そのときにラクなような平屋にする、という点も建築プロの自宅に平屋が多い理由へつながります。

3-4. お施主様が2階を使わなくなる経緯を見ている

工務店を長年営んでいると、昔に建築したお客様の動向や家族状況の変化を目にすることが多くあります。

減築リフォームという言葉もあるぐらいですが、新築をする時はファミリー世帯でも15年~20年経ってくると家族構成が変化してきます。

2階建てを建てた昔のお客様から、今の自分たちには「大きすぎる」という状況になったり、加齢により2階への上下移動が億劫になったりと状況は家族それぞれです。
こういった現実を、自分たちで見聞きすることが多くあることも、自ら平屋を建てる理由の1つとなっているでしょう。

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4. 考えるべき生涯コスト

つづいて生涯に家にかかるコストで、一般的な2階建てと平屋でどのような差がでるのか?について焦点をあててみましょう。

ここでお伝えしたい結論は、平屋はメリットの中でも解説した通り、平屋は長く住み続けることができる観点から生涯にかかる「居住費」全体を抑えることができる、ということです。

どういった話なのか、詳しく見ていきましょう。

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4-1. 老後も建て替え・住み替えが不要

2階建てに居住していると、身体的に階段の上り下りが難しくなったり、危険が伴ったりするため、建て替えや住み替えされる方は少なくありません。

実際、年配のご夫婦が段差の少ないマンションに住み替えるケースはよくあります。
その際、当然ですが大きなコストが発生し、生涯コストから考えると大きなマイナス要素になります。
賃貸マンションという選択肢もありますが、年配になってくると孤独死などのトラブルの懸念から、賃貸の審査に通らないこともあります。
一方、平屋の場合は高齢者施設などに入るまでの間、住み替えをすることなく生活を送れることは大きなメリットと言えます。

4-2. 地震での補修リスクが少ない

2階建ては平屋に比べて、たくさんの壁や柱で支えないといけないことは紹介した通りですが、そもそも地震で家が損傷・倒壊するメカニズムを少しご紹介します。

地震によって家が倒壊に至るケースの大半は、2階建て以上の建物で、2階の重みに耐えきれず1階が滑るように崩壊し、家全体が倒壊します。

このように大きな地震が来た時に倒壊しなくても、住宅の躯体にダメージを受けることが考えられるので、大きな地震のあとには建築された会社などに点検してもらうことがおすすめです。
大きな地震の後は、繰り返し地震が発生し、さらに躯体が損傷するようなケースも考えられますので注意が必要です。
平屋であれば点検などが不要なわけではないですが、2階建てに比べて平屋の方が同じ地震でも家に掛かるエネルギーが少なくなります。
学校で習ったような物理の話になりますが、横にエネルギーがかかるとき、高さが低い程、受けるエネルギーが少なくなるため、家の補修が必要になるケースも少なくなります。

長く住み続ける家なので、いつかは起きると想定しておいた方がいい地震への備え・対策。
大地震に伴う修繕コストも、家の構造によってリスクが変動することを知っておくとよいでしょう。

以上からも平屋は生涯における、修繕コストのリスクを最小限にできると言えます。

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5. まとめ

昨今、東海地方でも平屋が流行り始めている理由、そして建築のプロである工務店の社長や設計士の自宅で平屋が多い理由をお伝えしてきました。

平屋はコストが2階建てに比べて割高になったり、大きな土地が必要という側面があります。
デメリットはこのような建築時にかかるコストが増えることですが、もうちょっと俯瞰的な見方をすると、平屋は将来的な修繕費や住み替えの費用を抑えることができます。
このような将来的にかかるコストを抑えることができるメリットと、冷静に天秤にかけて考えてみましょう。

プラン設計や選ぶ土地などによっては、多少割高な平屋の方が生涯にかかるコストも含めて、結果的に安く済むという可能性も高いでしょう。
このように平屋は、デメリット以上にメリットが大きい設計になりやすいため、プロである工務店の社長も自宅には平屋を選ぶわけです。
今回は、一般的な平屋のメリットに加えて、プロが平屋を選ぶ専門的な視点も入れて解説をしてきましたが、いかがだったでしょうか。

平屋が気になった方は、参考に検討してみてください。

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